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直販限定『MEMORIES OF OMIYAGE DOLLS』(文庫・PDFセット)

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都築響一(文・編)
直販限定文庫・PDFセット:3500円+税
(文庫版:104ページ、PDFダウンロード版:画像数322点)

昭和30〜50年代の観光土産人形たち

2018年に千葉佐倉の国立歴史民俗博物館で開催された「ニッポンおみやげ博物誌」は、江戸時代の参勤交代やお伊勢参りなどの影響から生まれた「おみやげ成立期」に始まり、現代のゆるきゃらやコンテンツ・ツーリズムにいたる日本人とおみやげの関係をめぐる歴史をひもといてくれた楽しく興味深い展覧会だった。その図録のなかで「大正期代から展開された民芸運動も、郷土玩具への関心も、ともに都市部において発明された概念である」という指摘がありハッとさせられた。もちろん「民芸」のもとになる庶民の日用品も、郷土の玩具も、柳宗悦や郷土史家の田中緑江らが「郷土玩具」という新たな言葉でくくるはるか以前から日常に存在していたのだが、これが都市を発端とする関心の盛り上がりによって商品としての「都市から地方への働きかけによっておみやげを生産し、流通するシステム」の成立を促したこと。さらに民芸も郷土玩具も、近代の都市部で成立した百貨店という新たな市場が地方物産の流通窓口となったと説明されていた。そういえば「松本民芸家具」とか、デパートの売り場で初めて見たというひとも多いはず。

ところでこけしは「みちのくの風土が生んだ」と言われるとおり東北地方に産地が集中してきた。僕らがいまイメージする昔ながらのこけしは「伝統こけし」と呼ばれ、いっぽうで木彫作家系の手になる「創作こけし」というジャンルがある。しかし本書に登場するおみやげこけしの数々は、そのどちらでもない、強いて言えば「観光土産人形」であり、特に東北らしさもまったくない。

日本が敗戦から高度成長期に移る1950〜60年代は、まだ海外旅行は高値の花で、国内旅行も社員旅行や修学旅行に代表されるような団体ツアーが主流だった(マイカーで個人旅行できるようになったりするのは、ずっと後のこと)。そういう時代におみやげとは、貴重な旅の体験を持ち帰り分け与えるためのものとして機能する。個人のコレクションではなく、他人のために購入するものとしての。それには「価値ある一点物」である民芸や、手の込んだ郷土玩具、大ぶりの伝統こけしなどは気分的にも、値段的にも、存在感の強さ的にもふさわしくない。

ここに収録した観光土産こけしは、ほぼすべて昭和30年代(1950年代後半)から昭和50年代(1971年代)にかけてつくられ、日本各地の観光地で売りまくられていた「ごく安価な土産物」だ。まだ深く調査できていないのだが(当時の生産者たちがもういないため)、民芸や郷土玩具とちがって、これらの観光土産人形はその土地や風土に根ざして生まれたものではない。おもに長野県、岐阜県、静岡県など木工や民芸品の産地だった地域で、地元の木工所や民芸品製造所から下請けの工房や主婦、高齢者による内職的な体制で大量生産したものを地場の民芸業者がまとめ、さらに大阪や東京の大手民芸卸商社を経、各地の観光地や温泉街に流通していったものだった。おみやげの主流が「もの」から「食べ物」になった現在でも、名前だけはその土地にちなんでいるのに中のお菓子や生産者はぜんぶ一緒、というのが多いのと一緒。ペナントや提灯、通行手形といった定番お土産とも一緒。だから集めていくうちに、人形としてはまったく同一なのに、付けられている名前だけは「信州娘」「伊豆娘」「箱根娘」「フェニックス娘」だったりと、いかにも「その土地でつくられました」感を強調している人形がずいぶんあった。

大量生産とはいえ、一見してわかるように工場で機械がどんどんつくる、というのとはちがう。あくまでひとの手による人形ではあるけれど、安価な土産物だし、いわば「裏方の仕事」ゆえ工房や作家名がそこに記されることはない。どこで、だれがつくったかもわからないまま、いっとき日本中の家庭や職場にあふれ、ホコリだらけで捨てられ、いまやヤフオクで段ボール一箱千円でも買い手が付かないという・・・。

こうした観光土産人形は日本人の旅行形態が変わっていくとともに邪魔扱いされるようになり、前述のファンシー絵みやげなどの徒花を生み出しながら、「もらってうれしいのは食べるもの」へと変わっていく。「ニッポンおみやげ博物誌」図録には最後のほうに「消えつつあるおみやげの居場所」というページがあったーー

かつての多くの家庭には、ほぼ必ずおみやげを飾るスペースがあった。玄関の靴箱の上には花瓶などとともに、各地のおみやげが飾られた。和室の床の間や違い棚には、旅先で購入した焼き物や工芸品が据えられた。時には鴨居の上の長押に、様々な場所で購入された提灯が、所狭し並んでいることもあった。洋風の応接間にも、ウイスキーやブランデーなどの洋酒と食器を置く飾り棚があり、その中には、各地のおみやげが並んでいた。民芸品や郷土玩具はもちろんのこと、飾り棚に並ぶ切子のグラスや磁器のカップも、旅先の思い出を呼び起こす一品かもしれない。部屋が板壁ならば、そこにペナントやタペストリーが貼られることもあっただろう。

それが玄関先であれ床の間であれ応接間であれ、共通しているのは「家族以外の存在が家を訪れた際に使われる空間」であること。そこに並ぶおみやげは「こんなに旅行行けてます」というステイタスの誇示としても機能したろうが、現代の居住形態ではそのような「長期にわたっておみやげを飾るスペースの多くが失われつつある」ことも、観光土産人形が消え去っていく一因となった。旅行することがステイタスの誇示なんかには、まったくならなくなったのに加えて。

1956年生まれの僕ですら、家族や修学旅行先でこうした観光土産人形を見ていた記憶はない。ましてや高度経済成長期も、ファンシー絵みやげ期も、バブル期すらも知らない若い世代に、こんなに安っぽくて、はかなげで、かわいらしい人形たちはどう映るのだろうか。バンコクの市場で見つけたときも「これをどんなタイ人が買うのか!」と絶句したが、ヤフオクですらまったく競られることのない現在の日本では、もしかしたら「昭和レトロ」みたいなレッテルをつけられて生き延びていけるのだろうか。


※PDF ブック版は、文庫版では掲載しきれなかった全コレクション322点を高解像で収録。
PDF フォーマットなので専用アプリ不要。スマホ、タブレット、デスクトップコンピュータまで、あらゆるデバイスで読み込みできます。画像は拡大可能なので、小さくてふだんは見えにくい木肌の優しさ、表情の愛らしさまで、たっぷりお楽しみください!

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