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新開のり子鉛筆画集『フィロソファー・オブ・ザ・ワールド』(POCKET ROADSIDERS)
¥1,650
「勤め先で受けてるイジメや人間関係のゴタゴタを絵にしたら少しは気晴らしになるかと」思いついて、「すいません、すいません」が口ぐせの彼女は、きょうも勤めから帰ると自室の机に向かって鉛筆を削り、画用紙に向かう。描き込まれた鉛筆の線のあいだから滲み出る、なんともいえない対象への愛情や慈しみの感覚。丹念な部分と適当に描いた部分のすさまじい落差。楽天的で、ときに脳天気とすら言いたくなる画風の底に淀む微かな不穏の兆し——地元の公会堂で週末に演奏するたび暴動が起きたという伝説を持つ、あのシャグズの「フィロソフィー・オブ・ザ・ワールド」が画用紙に仕込まれたスピーカーで鳴っているような。 鉛筆画一本 僕のこころに 青い空を かくときも 真っ赤な夕焼 かくときも 黒い頭のとんがった 鉛筆が一本だけ 1969年に坂本九はそう歌った(作詞・浜口庫之助)。新開のり子の初画集「フィロソファー・オブ・ザ・ワールド」。これは鉛筆という松明を頼りにこころの奥の暗い場所に潜っていく、彼女のダーク・ツーリズムの記録である。 都築響一
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シブヤメグミ『懺悔の値打ちもない』(POCKET ROADSIDERS)
¥1,650
新宿の片隅で秘密めいたバーを経営するシブヤメグミは「嵐を呼ぶ女」だ。ホストにホームレス、ミュージシャン、弁当屋のおやじにAV映画監督・・・・・・「このひとはいったいどうやってこんなに突拍子もない人間たちと出会って、いきなり親しくなってしまうんだろう」という積年の疑問が嵩じて、メールマガジンで「シブメグの人生小劇場」という連載をしてもらっているが、どんなすごいひとよりもすごい体験を、自分がずっと抱えたまま生きていることを最近知った。 実の母親が巻き込まれしゃぶり尽くされ食いちぎられた、どうしようもなく圧倒的に獣のような男の欲望人生を、餌食となった女たちがいま語り出す。読んでつまらないから三文小説と言うけれど、どんなに想像力が枯渇した小説家でも躊躇するような展開が現実に起こってしまうと、その圧倒的なリアリティに僕らは立ちすくむしかないのだった。 都築響一
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小指『宇宙人の部屋』 (POCKET ROADSIDERS)
¥1,650
わたしが恋したひと、一緒に起きて寝て人生を共にしてきた男はふたりの宇宙人だった。空の上にある無限の暗闇ではなくて、酒瓶の底にある淀んだ宇宙の住人だった。素面だと道端の老犬のように静かに優しいのに、一滴のアルコールで彼らは制御不能な獣に変身した。そして20代のほとんどを獣の世話に明け暮れたわたしも、酒に依存する人間に依存しながら、状況を好転させるどころか彼らの人生をよけい悪化させているだけなことに、ある日気づいてしまった。 アーティスト“小指”がいま初めて綴る、傷だらけの日々の記録。生きることに不器用な、3つの魂がひとかたまりになって坂を転げ落ちていく先に底はあるだろうか。明るい陽の差す出口は見えるだろうか。
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